Malzack Blog

— 丸山和訓のブログ —

カミクボさん

「仲介っていうのは困っている人の味方になる仕事だよ」

そう教えてくれたのはカミクボさんだ。不動産業で働いていたときの先輩だ。先輩といっても20歳以上も年上。正直いって、出世には向かない人だった。

会社の利益になるように動く。それが民主主義のあるべき姿だと思う。社員は会社の利益から賃金を得ているわけで、会社が儲からなければメシの食い上げだ。

不動産の仲介業というのは、文字通り人と人の間に入る仕事である。しかし純粋に公平な立場とはいえない。基本的には会社の利益になるほう、自社の顧客の利益になるほうに動くものだ。

しかし、カミクボさんは違った。会社や顧客の利益が減ったとしても、困っている人が救われるような取引をコソコソと成立させていた。だから、会社の上層部には「もっと良い結果を出せ」と絞られていたものだ。でも僕はそんなカミクボさんの働き方が好きだった。

とはいえ、カミクボさんは世間一般的な人格者というわけではない。ギャンブルはするし、大酒は飲む。競艇にも足繁く通っていたようだし、ガード下の居酒屋がこれほど似合う人もいない。でも、まわりのサラリーマンと違うのは悪口をほとんど言わないことだ。僕が会社への不平不満を言うと、「そんなつまらない話やめようよー」とよくたしなめられた。

困っている人の味方になる。出世はできないかもしれないけど、そんな生き方もかっこいいな。カミクボさんと何度もお酒を酌み交わすうちにそう思った。

しかし、飲み屋の会計のとき、店員さんが隣のテーブルの伝票と間違えて想定外の高い金額を提示すると、「てめぇ、はったおすぞ。今日は気分悪くて払わねぇから、明日オレの会社まで金を取りに来い」と、店員さんを大層困らせることもあった。困っている人の味方にはなるけれど、人を困らせることも得意な人だった。

結局、カミクボさんは会社とウマが合わずに転職した。しかし、通勤の電車の中でコツコツと勉強をして取得した資格もあって、給料もあがったと喜んでいた。当時カミクボさんは50歳。今から10年ほど前の話だ。現在は60歳を超える年齢になるはずだが、彼はまだ困っている人の味方になっているだろうか。

ふと想像してみると、競艇で「いけー!」と叫んでいるカミクボさんの姿が浮かんで思わず吹き出す。良くも悪くも変わっていないだろうな。

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